東京地方裁判所 昭和43年(レ)216号 判決 1969年3月01日
控訴人(附帯被控訴人) 森谷幸治
右訴訟代理人弁護士 森虎男
被控訴人(附帯控訴人) 伊藤要三郎
右訴訟代理人弁護士 小島利雄
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、原判決を次のように変更する。
三、控訴人は被控訴人に対し金四万九、五〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四、被控訴人のその余の請求を棄却する。
五、訴訟費用中、第一審の訴訟費用および第二審の附帯控訴費用についてはこれを三等分してその一を被控訴人の、その二を控訴人の各負担とし、控訴費用については控訴人の負担とする。
六、この判決第三項は仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
一、控訴人が雑種犬くまを飼育所有していることは当事者間に争いがない。
≪証拠省略≫を総合すれば昭和四二年二月五日午前五時頃、控訴人の飼育所有する右くまが被控訴人方の庭内に侵入し被控訴人が当時同庭内玄関横に繋留して飼育所有していた雑種芝犬まるの咽喉部その他に吠みついて全治二〇日余の入院加療を要する重傷を負わせた事実、被控訴人方玄関には三〇ワットの螢光灯が設置されていたこと、まるの悲鳴を聞き伊藤ゆわが玄関横に行ったところ、くまが逃場を失い玄関前あたりをうろうろしていたこと、つづいて出て来た被控訴人の長男もくまが逃げて行く姿を見ていることが認められる。
二、控訴人は、右くまが本件のような事故を惹き起すことのないよう、右くまを繋留する等相当の注意をもって右くまの保管義務を尽した旨主張し、原審および当審控訴本人の尋問の結果中には、これに沿う供述があるが、これらは≪証拠省略≫に照し、たやすく措信しがたい。
かえって右各証拠を総合すれば、控訴人は日頃右くまの繋留を怠ることが多く本件事故当時もくまを繋留していなかったものと推認される。
三、被控訴人の受けた物的損害
≪証拠省略≫によれば被控訴人は、右まるを右二月五日より同月二五日まで大竹家畜病院に入院させ手術その他の治療費として金三四、五〇〇円を支出したことが認められる。
なお、被控訴人は同人の妻伊藤ゆわが右愛犬まるの受傷に基くショックが原因で高血圧、心筋障害に罹り病院に通院して治療費六、三七〇円、通院に要する雑費九、一三〇円、合計金一五、五〇〇円を支出したので、これについても、損害賠償を求める旨主張するが、≪証拠省略≫によれば、伊藤ゆわは本件事故前の昭和二七、八年頃から血圧がしばしば上ることがあって医院へ通っており、同人の発病もまるの受傷直後ではなく三日後の二月八日に同人が控訴人と本件事故にかかるまるの治療費その他の損害賠償について電話で交渉中、控訴人から「そんなに重傷で、金がかかるなら殺してしまえ」等の暴言を吐かれ、そのショックが直接の原因となって同人は高血圧、心室期外収縮心筋障害に陥ったものと認められるので、右くまによるまるの傷害事故と右伊藤ゆわの発病およびこれによる治療費その他の損害の発生との間には、間接の因果関係があるが、これをもって相当因果関係があるものとは認められない。従って、被控訴人のこの点に関する請求は理由がない。
四、被控訴人の受けた精神的損害。
被控訴人は慰藉料として金三万〇、〇〇〇円を請求する。≪証拠省略≫によれば、被控訴人は犬のほか、鳩、インコ、亀等を飼育している動物愛好者で、本件まるも昭和三八、九年頃から飼育し、毎期散歩させたりして家族の一員のように愛育していたところ、右まるが咽喉部を咬まれ、無残にも咽喉から直接呼吸しているありさまを知り、相当重傷で、一時は死んでしまうかもしれないと思われたこと右まるの傷害が間接の原因となって被控訴人の妻ゆわが前記のとおり、ショックを受けて、その治療をうけるに至ったことなどからして、被控訴人が右まるの本件受傷によって相当の精神的苦痛を受けたことが認められる。しかし、右まるの傷も全治して被控訴人の手許に戻ってきたのであり、その他諸般の事情を考慮すれば、被控訴人の苦痛を慰謝するには金一万五、〇〇〇円が相当である。
五、以上のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し物的損害賠償として金三万四、五〇〇円、慰謝料として金一万五、〇〇〇円、合計金四万九、五〇〇円およびこれに対する本件事故後である昭和四三年三月一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、本件附帯控訴は、金一万円の限度において理由があるのでこれと符合しない限度において原判決を一部変更しその余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 菅原敏彦 池田真一)